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20世紀後半に地球の環境はどれだけ変化したか

京都エネルギー環境研究協会 第二回総会 講演会  2002年6月22日

京都大学人間環境学研究科 教授 玉田 攻 氏

私の専門は鉱物学の分野で結晶を対象に研究を行っている。日々は結晶の細片をエックス線の装置にかけ、コンピューターで構造解析を行うと言う事である。例えば、地下深くもぐって、マントルに入るとカンラン石というのが沢山あるが、このカンラン石の原子配列を調べる事を行っている。こうした事に関連して、地球環境がどのように変化しているか、皆さんに知って貰いたいと思い、本日の講演を引き受けた。

 エネルギーに関して、漠然と暫くすると石油が枯渇するのではないか、太陽エネルギーを利用するようにすれば、暫くは資源の枯渇を心配しなくてもよいのではないか、と多くの方々が考えておられと思う。最初に、エネルギー資源の現状を紹介します。

 世界のエネルギーの消費動向は1900年頃迄はたいしたものではなく、その後徐々に増加の傾向を辿って、1950年頃から急激に消費が伸びた。この1950年頃からエネルギー消費が急激に伸びた傾向に示さされる如く、色々な変化がこの頃から急激に起こっている。

 最近のエネルギー資源の利用比率は、石油29%、石炭39%、天然ガス22%、水力3%、原子力7%である。この比率から判るように化石エネルギーが90%である。この化石エネルギーが貯めたり、使ったりと言う訳ではなく、大昔に地球に貯められたエネルギーを一方的に使っている訳である。風力エネルギーや地熱エネルギーもあるが、こうしたエネルギーは現状では微々たるものである。エネルギーの消費動向としては、開発途上国の消費が急激に立ち上がって来ている。しかし、アメリカ、カナダ、旧ソ連邦、日本、ヨーロッパ等の先進国のエネルギー消費は世界の消費の3分の2を占めている。開発途上国が残りの3分の1を消費している。人口で言うと5分の1の人々が3分の2エネルギーを消費し、残り5分の4の人々が3分の1エネルギーを消費している。言い方を変えれば、先進国の人々は生きているだけで開発途上国の人々に対して悪いことをしていると言える。

 石油石炭天然ガスの資源はその生成過程と分布が非常に異なる。石油や天然ガスは、大陸同士が何億年もかかって、ぶっつかりあって浅い海が出来ると、その浅海に藻類が発生し、複雑な過程を経て藻類型ケロシンと言うものが出来て、それで石油や天然ガスが生成する。いわゆる海洋性の資源で分布が偏っている。一方、石炭は、昔の樹木、植物がその生成源で、陸生の資源である。

 資源の利用可能な残存量は石油が45年、天然ガスが65年、石炭は200余年となっている。しかし、45年経てば石油が無くなるとか、65年経てば天然ガスが無くなると言う訳でもなく、石炭に至っては200余年となっているが、事実上は無尽蔵にあると言ってよい。石油の分布は中東に遍在しており、エネルギー資源を石油に頼る限り中東依存となってしまう。天然ガスは中東と旧ソ連東ヨーロッパにあるので、石油より遍在が少しはましである。石炭は開発途上国ばかりでなく、先進国にも分布している。幾ら使ってもよいと言う訳ではないが、石炭に資源をシフトすればエネルギーの枯渇と言う観点からは問題がないらしい。

 将来はどんどん石炭に依存するようになって行くだろう。特に、発展途上国がどんどん使うようになる。しかし、石炭はカーボンの固まりであるので、炭酸ガスをどんどん出す事になるし、石炭は硫黄を多量に含んでいるので、酸性雨の問題が大変になるだろう。特に隣国の中国が石炭を多量に使うと日本はそれによる酸性雨を浴びる事になる。現在中国は世界の石炭消費の3分の1を占めている。

 水力発電のコストは設備費がキロワット当たり64万円、発電コストがキロワットアワー当たり13円。石油、天然ガスがキロワット当たり20万円、発電コストがキロワットアワー当たり14円。原子力がキロワット当たり30万円、発電コストがキロワットアワー当たり9円であるが、原子力の場合、廃棄物処理費用をコストに入れていないので、これを入れるともっと高くなる。地熱はコストが高く、大きな発電設備を作れないので、殆ど見込みがない。風力発電は現在世界で1800万キロワット程度で、石油や原子力発電所9カ所分程度だが、将来開発が進みもっと増える見込みである。ここ当面水力、石油、天然ガス、原子力が頼れるものと言える。太陽光発電は現在20万キロワット程度で、現状では早晩化石燃料に取って替わると期待するのは無理であろう。

 次に金属資源の状況を紹介する。

鉄、ボーキサイト、銅等々1950年代から生産量が急激に伸びている。この現象はエネルギーの場合と全く同じである。1900年代の頃と比較して20倍位になっているが、このようにどんどん伸びていく傾向が永久に続くわけがない。

 可採年数は金銀で20年、銅も40年弱で、いずれも枯渇が心配である。白金は250年で心配がない。鉄も数値として70年となっているが、現在の採算性を考慮した数値であって、地球科学的には幾らでもある。鉄は縞状鉄鋼床という世界中にある鉱床にあり、昔の旧大陸の沿岸に沿ってベルト状に幾らでもある。クロムや白金は南アフリカに遍在している。クロムで83%、白金で89%が政情の不安定な南アフリカに遍在している。金も世界の生産72千トンの内、32千トンを南アフリカが生産している。その他ダイヤモンドも南アフリカに遍在しており、南アフリカは資源大国である。これはブッシュヘルド大岩帯という19億年前に地下から上昇してきた岩帯にこうした金属資源が濃集しているからである。

 環境に影響を与えるという意味で炭酸ガスの排出量について紹介する。これも1950年代から急激に増加している。何もかもが1950年代から増加している訳である。炭酸ガスの排出と言う事では石炭の消費比率は29%であるが、炭酸ガスの排出量で言えば40%が石炭からきている。天然ガスは水素を含んでいて、燃やしても水になるので、炭酸ガスの排出としては22%である。国で言うとアメリカ、カナダ、旧ソ連等々の先進国が3分の2を出している。開発途上国は急激に排出が増加している。開発途上国の生活レベルからして、炭酸ガスの排出に配慮しておられない。

 一人あたりのエネルギー消費で言うと石油換算で、開発途上国で0.5トンある。アメリカ、カナダが8トン、ヨーロッパが4トン、日本が3トン程度である。一方中国は少ないが伸びが急激であり、これを押さえる事が出来ないので、恐ろしい。

 空気中には窒素が78%、酸素が21%、アルゴン、炭酸ガス等が1%である。炭酸ガスの観測はマウナロアで1960年に始まり、280PPMであったものが、今では360PPMになっている。地球科学的には炭素は空気中には6700億トンあり、陸地に生きている物に8330億トン、死んだ生物に1万億トン、海中に5000億トン、化石燃料に10万億トン、岩石に20百万億トンもある。岩石としては方解石やロードクロサイト等である。こうした空気中の炭酸ガスを岩石にして埋め戻せば問題が解決する訳であるが、こうした岩石を構成するカルシュウムやマンガンをどこから入手出来るかを考えると、炭酸ガスを減らす為には、エネルギーを使うのを減らすのが一番の近道と言える。

 次に酸性雨に状況を紹介する。PH7が中性であるが、ヨーロッパではPH4.3、アメリカ東部ではPH4.2、の酸性雨が降る。中国のデータがない。日本では東京でPH4.7、北九州でPH4.7で、これは工業地帯であるので当然と理解出来るが、利尻島でPH4.8、佐渡島でPH4.6、隠岐の島でPH4.9、対馬でPH4.5で既に中国からとんどん酸性雨が来ている考えてよい。幸いなことに黄砂には10%の石灰岩が含まれていて、中和してくれている。中国がこのまま酸性雨に対策を取らないまま発展を続けると、日本の森林は壊滅すると予想される。

 南極大陸の上空にはフロンによるオゾンホールの存在が確認されている。

 人口の増加はエネルギーの消費と同じように1950年代から急激に増加している。開発途上国の人口増加が激しく、これは先進国による医療援助、食料援助等が幼児死亡率を低下させたのが原因である。エネルギー消費、資源消費等の人間の活動が自然の平衡を崩しており、先進国では人口は増加していないが、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ等で急激に増加している。エネルギーは90%を化石燃料に依存しているが、今後は石炭へ消費が移るだろう。そうすると酸性雨が増加する。金銀の資源は枯渇するだろうし、白金クロム等は政情の不安定な地域に依存しており、先進国ではこれらの資源が何一つ不足しても立ち行かなくなる。

 人口爆発の曲線、資源・エネルギーの消費曲線、廃棄物を代表する炭酸ガスの排出曲線、資源の消費を代表する鉄の生産曲線、こうした曲線は全く同じ形をしており、急激に増加しているが、これが続くものとは考えられず、早晩破局がやってくる。この破局はやってくるなら、むしろ早く起こる方が良い。早く起これば起こる程破局性を和らげるであろう。

 終りに、ここに電気石のサンプルをお見せする。こうした鉱石は何億年も存在しており、人類の急激な変化の様子をお笑いの世界と見ているのではないか。 以上

Written by Shingu : 2003年02月14日 11:25

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