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はんたか

NPO法人たんなん夢レディオメールマガジンに掲載

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おしゃかさまに、はんたか、という でしが いました。
はんたかは ものおぼえがわるく、そのうえ、
ものがよくいえませんでした。
おしゃかさまは、どうかしてはんたかを りっぱな人に
してやりたいと おおもいになりました。
そこでまいにち、かしこい でしを ひとりずつ、
はんたかのところへやって、
いろいろと、ものをおしえることにしました。
一年たちました。けれどもおぼえません。
二年すぎました。まだなにもおぼえません。
三年になりました。やはりかしこくなりません。
おしゃかさまは、
「では、わたしがはなしをしてみよう。」
とおっしゃって、 はんたかを およびになりました。
「はんたか、おまえは たくさんのことを 
おぼえなくてもよろしい。
ただ、ひとことを しっかりと おぼえなさい。」
はんたかは目をかがやかせて、
おしゃかさまのかおを みつめました。
「そのひとこと、というのは、きたないことばを
つかわない、ということだよ。わかったかい。」
はんたかは、このひとことを、
心の中にしまいました。
そのうち、きたないことばは、きたない心から 
うまれてくるものだ、ということがわかりました。
きれいなことばは、きれいな心から 
うまれてくるものだ、ということも わかりました。
「おしゃかさまの おしえてくださったことは、
きれいな心になれ ということにちがいない。」
とさとりました。

ある日、おしゃかさまは 王さまのおまねきに あずかりました。
おしゃかさまは たくさんの でしを つれて、
王さまのごてんにまいりました。
はんたかも、おしゃかさまの、 はち、をもって 
でしの 中にまじっていました。
ごてんの、いり口まできますと 門ばんが はんたかをみて、
「おまえさんのような おろかものは 
ここをとおすことはできない。」
といって、とおしてくれません。
しかたがありませんから、はんたかは門のそとに のこりました。
ごてんでは、おしゃかさまが せきに おつきになりました。
でしたちは そのわきにならびました。
そのときです。ふしぎなことに はちをもった手が 
するすると おしゃかさまの目のまえにのびてきました。
それをみた、ごてんの人々は、びっくりしてしまいました。
王さまは、
「これはふしぎだ。だれの手だろう。」
とおっしゃいました。
おしゃかさまは、
「これは はんたかの手でございます。あれは門のそとにいますので、
このはちを わたくしにとどけようとして 手をここまでのばしたのです。」
とおっしゃいました。
王さまはすぐ はんたかをおよびになりました。
はんたかは しずかにあがってまいりました。
はんたかのからだから きれいな光がさしていました。

昭和二十二年(一九四七年)文部省著作国語教科書、こくご3、第2学年用、11頁。


hantaka02.jpgはんたか(しゅりはんどく、周利(梨)般(槃)特)。この教科書は、法句譬喩経述千品第十六という古いお経によっています。ほかのお経にも、いろんな逸話が書かれています。方丈記など日本の古典には、はんたか、がよく引用されています。‘みょうが’を食べると、もの覚えがわるくなる、という迷信も、はんたか、に由来しています。
このお経の‘決め’の文句「偈(げ)」には「解一法句 行可得道 (一つでも大切な法句を理解すれば、それを実行して道がえられる)」とあります。大切なひとことを理解したら、それでOK。いろいろ知識を自慢してもだめ、肝心のことをよく理解しなさい、という教えでしょうか?

(財)若狭湾エネルギー研究センター 所長 新宮秀夫

Written by Shingu : 2008年01月03日 15:18

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