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幸福論の総括

京都大学国際教育プログラム(KUINEP)2007年度秋期授業 「幸福」 総括 日本語訳 2008年1月11日配布

幸福は象のように大きくて自分の経験だけからは想像しにくい側面もあるのだと思ってみるのがよさそうである。
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自分が触ったところ一箇所だけで象とは何かを主張する人を笑えるか? 葛飾北斎・浦上蒼穹堂蔵

自分の経験や身の回りだけを見て自分の幸福感を持つのは勿論勝手であり、それなりに良いものだが、他の人とコミュニケーションを持ち、より人間らしい幸福を得ようとするなら、人にも理解してもらえる幸福をさがしてみるのも良かろう。物事にはいつも自分の経験からは想像できない側面があり、自分の考えを人に理解してもらおうとするなら、いろいろな側面からものを考えることが大切になる。

この授業で検討してきたこと:

1.幸福の4つのステージ:
(1)楽しみを増やす。 (2)楽しみの持続。 (3)苦難や悲しみからの回復。 (4)苦難や悲しみ、そのものにも幸福を見る。

2.幸福感と限界効用:
ウエーバー・フェヒナーの実験による、人の刺激(利得)に対する感覚が刺激の増加に対して対数関数(2倍嬉しいためには刺激は4倍)になっている事実。それが限界効用として経済学でいわれる、限りなく利得を求める行動の基本原理となっている。

3.功利主義の幸福:
最大多数の最大幸福。これが功利主義のキーワード。利得の増加すなわち幸福と考え、今生きている人だけの最大多数を数えてそれで良いか?

4.デボラ数と幸福:
人の噂も75日というように、何ごとにも過ぎ去る時間がある。それが緩和時間、τ。じっと我慢して待つ時間が観察時間、t 。DN (= τ/ t) がデボラ数。デボラ数が1くらいになれば物事は流れ去る。人生50年なら、50年の幸福があり、人類存続100万年なら100万年の幸福を考える、という事。50年は永遠でもあり、また一瞬でもあり得る。100万年もおなじ。

5.我々の住む宇宙:
空間、時間、物質。空間と時間は4次元の世界を作る。その中にいる我々と周りの全ては物質、すなわちエネルギー、というのが我々の感覚で捉えることの出来る宇宙。幸福と関係するのはこの世界のどれだけの範囲か?

6.パスカルの賭け:
二つの選択肢のどちらを選ぶべきか?神あり、と賭けて死後の天国を望むか、無しと賭け、て地獄に堕ちる危険をおかすか?これがパスカルの賭け。.そんなズルイ賭けをして神を信じた振りをしても、神様はお見通しですゾ。とは、パスカルは考えなかった?! けれども神様以外の事にはこの賭けは有効。幸福を求めて矜持(きょうじ)を捨てて金の亡者になるか、プライドにこだわり貧乏でも幸福になるか?日和見主義でそこそこ行くか?取り返しの効かない失敗の可能性を避けるのがパスカルの賭け。

7. 絶対という事は無い:
喜びだけあって悲しみなし。ということは、この世にも天国にもどこにも無い。不幸があるから幸福がある。絶対とは、対、つまり相手が無いこと。片手だけの拍手、隻手音声(白隠、禅公案)は絶対の音。 聞こえる、聞こえない!?

8. 想像できる幸福と想像を絶する幸福:
「仕合せな家庭はみな似たり寄ったりだが、不仕合せな家庭はそれぞれに不仕合せだ」 トルストイ、アンナ・カレーニナ冒頭の文章。人と同じである仕合せを選ぶか、人と違うことを幸福に思うか?「悲しみは笑いにまさる」 という言葉が理解できるでしょうか?旧約聖書、コヘレト。続きの文には「悲しい顔は、良い心をつくる」とある。幸福にはいろいろな側面があります。

9. 感動は前進、満足は後退:
幸福になったらその後どうする?満足したら人はおしまい、という言葉は理解できる。

10. 幸福は個人的か普遍的か:
幸福は個人的で人それぞれである、と同時に人間すべてに普遍的な幸福の概念も考えられる。、すなわち、唯名的であると同時に実存的?

11. 悪が世にあるのは、人を失望させるためではなくて、活気づけるためである。この世から悪を駆逐するために全力を使うことは、人の好むところであり義務でもある。そのような行動により、人はおのれの心を高揚し、より良くできるであろう。(マルサス、1798年)。幸福には悪も必要?

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苦難からのがれようとして、人は苦難に向かって突き進む。
幸福を求めながら、まるで敵のように、愚かにも幸福を打ち壊す。
Santideva, "Bodhicaryavatara"(寂天、入菩提行論)

Written by Shingu : 2008年03月20日 12:35

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