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「この娑婆(しゃば)に掴(つか)みどりはなし」 エネカン冊子10号

12年前に書いたある雑誌の巻頭言を読み返して、当今の原子炉稼働継続についての世間の“さわぎ”が根本的な思考、すなわち哲学を欠いていることを改めて痛感したので、そのままを今年のエネカン冊子(10号)巻頭(前頁)に改めて掲載させて頂きました。ここでは、エネルギー掴み取り、の現状について、少し考えてみます。

(画像をクリックするとPDFで開きます)


 地球上には数え切れないほど多くの生物が生きています。人間もそれらの生物の中の一種類です。生き物は皆、エネルギーを消費して生きているのですが、大きな生き物は多くのエネルギーを使い、小さな生き物は少しのエネルギーで生きています。生きるために必要な、エネルギー量は基礎代謝量(BMR)と呼ばれますが、人間のBMRは約100ワットです。生物として人間が身体を健康に保つには、100ワットの電球が常時消費するエネルギーと同じエネルギー消費率の維持が必要です。

 人間以外の生物はすべて、BMR 以上のエネルギーを消費しません。ところが、人間は、“豊か”な生活をするために、日本人ならBMR の40倍、北米の人なら約80倍のエネルギー消費をしています。世界平均でも約16倍のエネルギー消費をしているという統計結果が出ています。つまり、現在70億の人間は生物としてみたら、なんと、千億人分以上のエネルギーを使っているのです。

 人間だけが“エネルギー掴み取り”の生活をしています。問題点を2つに絞って考えましょう。
 (1)このような掴み取りが、自然環境、すなわち人間が持続的に生きのびる自然の条件を乱さないか。
 (2)掴み取りの生活は、人間に幸福をもたらしているか。
 はじめの、問題についての答えは、幸か不幸か昨年の原子炉事故で実感を皆が持ったように、エネルギー掴み取りはタダでは出來ない、必ず大きな借金を背負い込むことと引き替えなのだ、ということです。

 しかし、では、原発を止めてどうするの?という明確な案なしに、反対を叫ぶことは、無責任であり、結局原発廃止という目的を達成する力にもならないのです。
 事故が起こる前には、社会は京都議定書に沿った炭酸ガス削減の実行を望み、そのためには排出量の少ない原発を容認してきたのです。事故が起こったからといって、ただでさえ厳しさの欠ける議定書の炭酸ガス削減目標を、達成不可能だ、と政府が公言する事態になってきています。

 皆が目標を見失いかけている今こそ、いみじくも、西鶴が「日本永代蔵」の冒頭にかいた、「天道もの言わずして、国土に恵みふかし」の言葉どおり、太陽エネルギーの利用法の推進に全力を上げる他に打つ手はまったくナイ。という結論は科学的にも、常識的にも極めて明確なのだ、と再認識しなければなりません。

 そこで二番目の問題ですが、総理大臣は、国民生活を守るために、電力不足回避を“最優先”する、という発言をしています。

 30年前にはクーラーなんぞ一般家庭にはなかった、50年前なら、何処にも見当たらなかった、それが急に“生活必需品”になり、夏の電力需要ピーク、なんていう現象を誰もオカシイといわずに、生活を守れ~!という話しになっている。

 人間、社会適応性はすこぶるスバラシイのです。 先の戦争(応仁の乱ではなくて太平洋戦争)の時には、その数年まえまで、きらびやかにめかし込んでいたご婦人方がみ~んな、モンペ一色、政府の配った竹槍で、隣組(町内会)で声をそろえて、ヤ~!とか叫んで、アメリカ兵をやっつける訓練をやらされて、何とも思わなかった。

 そんなことを目撃している小生には、クーラーが無くてもみ~んな平和に幸福に暮らせることは
ハッキリと分かっています。

 電気代やガソリン代を10倍(!)にすれば、夏の電力ピークなんて消し飛びます。1人当たり月に10kWh使用のタダ券を配れば貧乏人はそれを売って儲かるし、結構社会は安泰ですョ、といいたい。総理が“最優先”して守るべきは、自然の理に適った節度ある倹約の社会であり、座礁沈没しかけた時に船から逃げ出して入院した船長、なみの人物に原子炉を任せる危険をおかしてまで電力不足回避を敢行することではないはずです。 

 今年のエネカン冊子記事の話題には「回到未来(バック・トゥー・ザ・フューチャー)」つまり、未来世代の気持になって今を生きることが大切という論説。朝日新聞に六回も書いたのにあまり読まれてない、エネルギー問題の真髄。など、さらには、発想・実践、が極めて世間並みでなく、独創的(ひとりよがり)なところが、エネカンの、存在価値、だという証しも数例ならんでいます。

 西台さんの、金環蝕と金星蝕の観察記録。エントロピーとはマグニチュードのこと。不規則な規則で石の並んだネックレス。鏡に映された音楽~。弁理士も諦めた特許申請が通った話しと実物。などなど、例年通り盛りたくさんです。

 シェークスピア、のハムレットにはTo be or not to be ・・・、の他にも「世に中にゃ、おまえさんが夢想だにせんことが、あるもんでっせ~」という文句も結構有名であります。お楽しみください。There are more things in heaven and earth, Horatio, Than are dreamt of in your philosophy.
(I.5.166). 

註:娑婆(しゃば)。仏教用語、この世、忍土、サハー、सहा

Written by Shingu : 2012年09月13日 16:22

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